外来診療をする中で、遭遇する病気について、記事にしてみることとした。
第一弾は、「鼠径ヘルニア」という病気について。
【はじめに】
鼠径ヘルニアとは、おなかにある腸や脂肪の組織が腹壁(お腹の筋肉などでできた壁)の弱い部分を通って突出する疾患のこと。いわゆる脱腸のこと。鼠径部は、足のつけねのあたりに位置しており、男性では精巣に繋がる血管や精管、女性では子宮円索という子宮を固定する靭帯の通り道となっている。年齢や性別に関係なく発症することがあり、痛みや膨らみなどの症状を引き起こす。今回は、以下の流れで鼠径ヘルニアの基本的な知識を紹介する。
- 鼠径ヘルニアの発症機序と原因について
- 鼠径ヘルニアの症状と診断方法について
- 鼠径ヘルニアの治療法について
【鼠径ヘルニアの発症機序と原因について】
鼠径ヘルニアの発症メカニズムは、腹壁の弱い部分に負担がかかった結果、腹部の組織(腸や内臓脂肪)が脱出することにより生じる。腹壁の弱い部分は、先天的なものや後天的なものがある。先天的なものであれば、幼少期に発症する。1歳以下の子供であれば、自然治癒が見込める場合もある。後天的なものは、もともと弱い部分にいろいろなリスク要因が加わることで発症する。リスク要因としては、肥満、激しい腹圧のかかるスポーツや仕事、妊娠などが挙げられる。
【鼠径ヘルニアの症状と診断方法について】
鼠径ヘルニアの主な症状は、足のつけね辺りの膨らみや痛み。特に、咳をしたり、くしゃみをしたり、力を入れたりすると症状が増悪することがある。長時間立ち仕事をしていたり、歩いたりすることで増悪する場合もある。また、嵌頓(かんとん)を起こした場合には、緊急を要する。嵌頓とは、腸が飛び出たきり戻らなくなり、腸の血流障害が起きてしまう状況のことである。とにかく膨らみが固くなり、痛いため、すぐに病院を受診することが大事である。診断方法は、主に診察所見と画像検査(超音波やCTなど)が用いられる。
【鼠径ヘルニアの治療法について】
鼠径ヘルニアの治療法は、根本的な解決を目指すのであれば、手術一択となる。しかし、症状が軽度である場合には保存的治療(手術をせずに経過観察する)を選択することもある。腹圧かかる動作を避けるための生活習慣の改善や、ヘルニアバンドなどを用いて局所を圧迫する方法などがある。
手術を行う場合、基本的には腹壁の弱い部分をメッシュで補強することで治療を行う。足のつけねを一部切開し、筋肉の隙間にメッシュを置いてくる方法が従来より行われてきた手術方法である。近年は、腹腔鏡手術の発達により、創の小さい手術が主に行われており、痛みや回復期間の短縮が期待されている。
【まとめ】
鼠径ヘルニアは、腹壁の弱い部分を通って腹部の組織(腸や内臓脂肪)が脱出する疾患であり、足のつけねの痛みや膨らみを引き起こす。緊急を要する事は少ないが、根本的に解決するには手術が必要となる。疑わしい症状があり、不安を感じたときは、早めに医療機関を受診することが重要である。